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2012年6月14日 (木曜日)

大失敗だった太陽光発電推進 ドイツの教訓に学ぶ

太陽と風の発電は先進国で悲惨な状態となっている。
尾崎弘之教授のビジネスインサイトを転載する。

大失敗だった太陽光発電推進 ドイツの教訓に学ぶ
 尾崎弘之教授のビジネスインサイト
   東京工科大学大学院ビジネススクール教授
   2012年 5月 28日 

 今年7月の「再生可能エネルギー全量買取制度」導入に伴い、経済産業省の「調達価格等算定委員会」(算定委員会)が提出した太陽光発電の買取価格「1キロワット(kw)時あたり42円」という案が高過ぎるということを書いた。
 前回は、太陽電池の世界的な値崩れを十分に反映していない買い取り価格は高すぎる、という観点で書いたが、本コラムでは、太陽光以外の再生可能エネルギーとの比較、および再生可能エネルギー大国ドイツにおける太陽光発電の評価を見ながら、さらなる問題点の指摘を行う。

太陽光ばかりに資金が集中すると思われる理由
 全量買取制度の対象は太陽光以外に風力、地熱、中小水力、バイオマスがある。今回これら5種類のエネルギーについて買取価格案が出されたが、発電事業は太陽光に集中する可能性が高い。なぜなら、太陽光の初期投資負担が最も低いからである。算定委員会の資料によると、太陽光の施設建設費は発電量1kwあたり 32.5万円である。これに対して、地熱は79万円、中小水力は80万円、ガス化バイオマスは392万円と太陽光よりはるかに高い。これに対して、風力は 30万円、固形燃料燃焼バイオマスは31~41万円であり、太陽光とあまり変わらない。(注)

 太陽光以外のエネルギーには、費用以外に、設置手続きが複雑で時間も追加コストもかかるという問題がある。まず、地熱と風力は、地下深くボーリング作業を行ったり、巨大な設備を作ったりするので、環境アセスメントを行わなければならない。また、風車が作る低周波や温泉の有毒ガスの問題があるので、地元の住民との交渉に時間がかかる。国立公園内で開発するのであれば、許可申請手続きがさらに長引く。中小水力の場合、一級河川から水を引くのであれば、法的手続きに3年はかかるといわれている。たとえ、一級河川でなくとも、発電設備を作るのに水利権者との調整が欠かせない。固形燃料を使ったバイオマスは、燃料として下水汚泥、木材チップ、廃棄物などを調達しなければならない。とても素人にはできない作業である。

 要するに、太陽光以外のエネルギーは、その道で経験を積んだ人でないと、買取価格の高い低いにかかわらず、容易に参入できないということである。参考までに、算定委員会は、計画から稼働までの期間として、太陽光は1年、風力は4~5年、地熱は9~13年と見積もっている。
 これに対して、太陽光は設置が容易である。土地を見つけて使用料金で折り合いがつけば、すぐ始められる。環境アセスメントは基本的に不要だし、電気事業法をクリアすれば良い。したがって、今まで電力事業とは縁がなかった企業でも参入できるし、太陽電池の在庫を抱えていたメーカーにとってもチャンスである。

 以上の理由で、全量買取制度がスタートすれば、太陽光ばかりに資金が集中する可能性が高いのである。効率が悪い太陽光発電 初期建設費用だけでなく、太陽光は運転維持費用も安く、算定委員会によると1kwあたり1年間で1万円である。風力が6000円、地熱が3万3000円、中小水力は9500円、固形燃料燃焼バイオマスは2万7000円、ガス化バイオマスは18万4000円となっている。安い初期費用と維持費用を考えると、太陽光は安い電力になるはずだか、実態はその逆である。算定委員会の買取価格案は、太陽光がkw時あたり42円で、他のエネルギーは皆、20円台半ばであり(ガス化バイオマスを除く)、太陽光が最も高い。

  なぜ、このようなことが起きるのか。それは、太陽光の設備利用率が他のエネルギーと比べて際立って低いためである。算定委員会が計算根拠として使用している設備利用率は、小水力の60%、地熱、バイオマスの50~80%、風力の20%と比較して、太陽光はわずか12%に過ぎない。要するに、太陽光は夜間や曇りでは発電しないため、一見、発電能力(kw)が高くても、実際の発電量(kw時)は大したことないということである。しかし、太陽光発電事業者にもそれなりの投資利回りを確保することが法の趣旨なので、太陽光だけ特に高い買取価格を設定しているというカラクリである。前回指摘したとおり、現場の実情に照らした利回りはさらに高くなっている。

ドイツ環境政策史上最大の失敗
 太陽光の期待外れ度合いは太陽光発電大国のドイツですでに指摘されている。ドイツでは、巨額の財政負担や電気料金値上げによる補助が行われてきたにもかかわらず、電力全体に対する太陽光発電の比率は低く、有効でないという批判が起きている。クリーンエネルギー助成の約60%が太陽光発電向けに使われているのに、全発電における比率はわずか3%に過ぎない。助成金がはるかに少ないバイオマスや風力発電の方が太陽光よりずっと利用比率が高いのである。

 独シュピーゲル誌は「太陽光発電補助政策の落とし穴」という今年1月18日の記事で、太陽光発電のコスト(累計)が2000年から2011年までの11年間で 1000億ユーロ(約10兆円)に達したのに、それに見合う効果は出ていないと指摘している。記事は「太陽光発電補助政策はドイツ環境政策の歴史で『最も高く付く誤り』になり得る」とまで酷評している。

 ドイツが太陽光発電を推進した2000年代は、補助政策にもそれなりの意味があったのであろう。なぜなら、2020年までに再生可能エネルギーを20%まで引き上げるというEUの統一目標と、太陽光産業による雇用増加の期待があったからである。ところが、エネルギー比率改善も雇用創出も期待外れであった。ドイツ政府は2010年までに37万人の再生可能エネルギー関連の雇用が生まれたと指摘している。しかし、買取制度による電気代値上げのマイナス効果を考慮すれば、雇用数は大幅に相殺される。連邦環境・自然保護・原子力安全省による 2007年の報告書では、2006年における雇用創出は24万人弱だが、マイナス効果を考慮すると7万人前後に過ぎない。

安定供給がない太陽光になぜ期待する?
 ドイツは、太陽光発電推進は誤りだったと言っているのである。二酸化炭素(CO2)削減よりもエネルギー安全保障が重要な日本で、太陽光推進に固執する必要があるだろうか。太陽電池の在庫減らしに国民の税金を使われたのではたまらない。また、全量買取制度という「公費」で儲ける電気事業者には電力安定供給義務を課すべきだが、経営不安定なベンチャー企業にそのような責任を負うことはできるだろうか。
 私は全量買取制度を全否定しているわけではない。
下記のポイントを考慮しながら運用を改善するべきである。

1)太陽光ではなく効率が良い風力や地熱を推進する
 これは再生可能エネルギー増加という本来の目的に適う。

2)太陽光は分散型、非常用電源としての役割を再認識する。

 ドイツの例でも分かるとおり、太陽光は全量買取で発電ボリュームを増やすことに向いていないが、風力、地熱、水力と違って、街中に設置できるメリットがある。
街中の分散型、非常用電源として使いやすいのである。
では、全量買取ではなく余剰買取があれば十分かというと、そうでもない。余剰買取は同じ建物内で完結するもので、コミュニティ内の違う建物に電力を融通する、近隣コミュニティに余った電力を融通することは想定されていない。
電気事業法の電力供給者にならないと、このような行為ができないからである。

 また、系統連結(発電所と電力会社の送電網との連結)のコストが高く、時間がかかるという問題も解決されなければならない。これには、電力会社の積極的な関与が不可欠である。再生可能エネルギー推進には、ベンチャーや他業種の企業が頑張れば何とかなるものではない。電力会社も同じ目標を持ち、推進に協力することが担保されて初めて達成できる。そのための制度的裏付けが必要であるが、原発再稼働と電力不足対策ばかりで、再生可能エネルギーの議論まで手が回っていない。

(注:建設費、運転維持費は発電能力によって異なり、大設備ほど割安となる。文中で示している各費用は、太陽光の場合10kw以上であり、風力は20kw以上、地熱は 1.5万kw以上、中小水力は1000kw以上3万kw未満である。バイオマスの場合は、発電能力によって費用に差がない)

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